エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
ベリルの顔をしたシンディが戻ってきたのは夕方だった。ホールでは、ベリルとメイドが、明日焼くお菓子の相談をしていた。
「ただいま」
「おかえりなさい。シン……ベリル」
ベリルが、うっかり間違えそうになって、ひと呼吸入れてから言いなおす。
入れ替わって一日たつのに、まだ戸惑いを隠せない様子のベリルを見ているとなんだかイライラした。
「何をしているの? シンディ姉さま」
「明日、孤児院にお菓子を持っていこうと思って」
「孤児院? クリスマスに持って行ったばかりじゃないの」
「新年のお祝いがてらよ」
ベリルはそう言うが、シンディには納得できない。
普段、シンディは孤児院に行きたがらない。子供の騒がしさが苦手なのだ。
だがベリルは、社交界に出るよりも楽しいと言って、今までも何度か個人的に孤児院を訪れている。
またその類か、とシンディは思った。シンディとして生きる気持ちを固めたのなら、なりきってくれればいいのに。
「えっと、ベリルも行かない?」
「私も?」
ベリルからのまなざしに、懇願の色を見つける。