エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
たしかに、シンディが特別な日でもないのにひとりで孤児院を訪問することはほぼない。だがベリルが一緒ならそれはあり得ることに変わる。父や母に疑問に思われないためにも、同行してほしいというのだろう。

「……そうね。わかったわ」

シンディには、面倒くさいという想いしかなかった。しかし、顔を交換し望まない結婚を強要させてしまっている負い目はある。
シンディが了承すると、ベリルはホッとしたように笑った。

「何をつくるの? 私も一緒にやろうかしら」

いかにもベリルが言いそうなことを口に出しながら、視線だけでベリルをたしなめる。
シンディは自分からお菓子作りをしようとか孤児院を訪問しようとは言い出さない。
分かっているのなら今度からはそんな言動はやめて欲しい。
シンディになり切ってもらわなければ困る、という意味を込めて。

* * *

翌日、ベリルは厨房の椅子に座りながら、お菓子を作るメイドとベリルの顔をしたシンディを眺めていた。
本当は自分で作りたかったのに、「シンディはそんなことしません」と怒られてしまったのだ。
昨日のシンディはとても機嫌が悪く、入れ替わりについてもっと話したかったのに、文句だけ言うと自室にこもってしまった。

(シンディがヒューゴ様のところで何を話してきたかも聞きたかったのに。それにアンドリュー様のことも教えてないし)

アンドリューの存在はあまり多くの人に知らせない方がいいような気がしていた。
彼は悪い人じゃないだろうとは思えるのだけれど、人相書きと似ていることが気になるのだ。
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