エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~

あの人相書きは、予想した通り城に入った賊を描いたものらしい。父に確認すると「逃げたという話だが捕まってはいない。警戒するように、と渡されたのだ」と言っていた。
また、賊が侵入したことは城に出入りする者以外には秘密にされているらしく、自分が人相書きを置き忘れたのが原因なのにも関わらず、「このことを口外するんじゃない。もう忘れなさい」と冷たく言われてしまった。

(それに、……アンドリュー様はベリルに会いたがっているみたいだった)

あの場でわざわざ“お嬢さん方”と複数形にしたのは、暗にベリルを連れてきてほしいということだろう。
初めて、シンディよりも自分の方を優先されたような気がして、今の自分の顔がベリルのものじゃないのを残念に思ったのだ。

「できたわ。シンディ姉さま、試食してちょうだい」

ベリルの顔をしたシンディが笑顔でやって来る。シンプルなクッキーだ。ドライフルーツやナッツを混ぜ込んでも良かったのに、なんてベリルは思う。

「おいしいわ。きっとアンドリュー様も喜ぶわね」

「アンドリュー? 誰?」

「クリスマスの日に、私……じゃなくて、ベリルを助けてくださった方よ。今、孤児院でお手伝いをなさっているの」

「助けてって……あの時の薄汚れた男? どうして、あんな男が孤児院に入り込んでいるの? 危ないじゃないの」

「悪い人じゃないわ。ちゃんと帰る家もあるようだし。ただ、迷惑をかけたお詫びに労働をしたいと言ってくださっているの」

< 49 / 186 >

この作品をシェア

pagetop