エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「なにそれ。……怪しいにもほどがあるわ。分かっているのシンディ。あなたは王太子の夜会にでなきゃならないのよ? そんな男にうつつを抜かしていてはいけないわ」
「そんなんじゃないわ。ただ、彼はその。……ベリルにも会いたがっていて」
「私はヒューゴ様との婚約が調ったのよ? そんな得体の知れない男に会うのは嫌よ」
「でも……」
「とにかく、そういうことならひとりで行って。私はやめておくわ」
ぴしゃりと言われてしまって、ベリルは肩を落とす。
しかし、おろおろとメイドがふたりを見つめているのを見て、いけない、と毅然とした態度を取り戻した。
「あらそう。ではいいわ。私ひとりで行きます。お菓子はもらっていくけど、かまわないわね?」
ベリルの顔をしたシンディに、明らかに戸惑いといら立ちが浮かび上がる。
けれど、人生を入れ替えようと先に提案したのはそっちだ。
ベリルになるというのならば、姉からの辛辣な物言いは我慢して受け入れてもらわねばならない。
「ええ。どうぞ。お持ちになって、お姉さま」
シンディも素を出しすぎたと反省しているのだろう。すぐに気弱なベリルの態度を装って返事をする。
結局、昼過ぎに屋敷を出たのはベリルひとりだった。