エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~

 荷物があるならばいっしょに参りますというメイドを断って、ベリルはひとり、孤児院への道を歩いた。
胸の中にはいら立ちがあった。
ベリルがシンディになって、王太子殿下の花嫁選びに出席しなければならないのはシンディのせいなのに。

いら立ちのせいで早歩きになり、孤児院に付いたときには軽く息が上がっていた。
子供たちの歓声が聞こえてきたので、中に入ってみると、アンドリューが中庭で薪割りをしているところだった。

「あ、シンディ様、すごいの。いっぱい割れる!」

普段、ベリルには抱き着いてきてもシンディには遠慮をする子供だが、あまりにも興奮したせいか駆け寄ってきて彼を指さす。
上着を脱いで薄着で薪割をする彼は、蓄えられていた木材をすべて薪にする勢いで割っている。

「まあ、本当だわ。すごい」

「ね。……あ」

女の子はベリルから手を離し、その手が汚れていたことに気づいて慌てる。

「ご、ごめんなさい、シンディ様」

「いいのよ。洗えば落ちるものですもの。それより、今日はお菓子を持ってきたの。薪割りが終わったところで配りますね」

「……ありがとうございます!」

女の子の顔が晴れ渡る。ベリルはホッとした。顔が変わっても、ここの子供たちは変わらぬ態度で迎えてくれる。
ベリルはアンドリューの薪割りが終わるまでそこで眺めていた。
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