エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
頼まれていた分を終えると、彼はにじんだ汗を拭きながら、ベリルのもとへとやって来た。
「やあ、シンディ殿」
「ごきげんよう、アンドリュー様」
まっすぐ伸びた背筋のせいでとても姿勢がいい。彼は直ぐに上着を羽織ると、「レディの前で失礼な姿をさらして申し訳ない」と非礼を詫びる。
「お菓子を持ってきましたの。今日妹はこれなくて。……でもこのお菓子を作ったのは妹なんですのよ?」
「そうなんですか。……それは楽しみだ」
アンドリューの口元が緩む。
目つきは鋭く、恐ろしささえ感じさせる顔なのに、ベリルはなんだかホッとした。
しばらくふたりは孤児院の子供たちの話をした。
ここにいる子の多くは、捨てられた子供たちだ。しばらく大きな戦争はなく、国は平和だ。人口は増え続けているが、一方で貧富の差は無くならない。
産んだものの育てきれず、やむなく孤児院の前に捨てていくのは案外とあることだ。
「近年、天候はそこまで悪くない。それでも農民が苦しいのならば、税率を下げなければならないだろうな」
真剣な顔で前を見つめるアンドリューのつぶやきに、ベリルは驚いた。
言葉遣いもそうだが、学もありそうだ。前から思っていた純粋な疑問を投げかけた。
「アンドリュー様はどこのお方なんですか?」
「え?」
彼は焦ったようにあたふたとしたが、自分の服を見て、はっとしたように顔を俯ける。