エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「……近くに住む、ただの平民ですよ。本来なら、侯爵家のお嬢様と話ができるような身分ではありません」
「そうかしら。物腰とか……とても優雅で美しいし、そんなに思慮深いのに。貴族のご子息と言われても驚かないわ」
率直な感想だったが、彼は嬉しかったようだ。凄みのある顔にはにかんだ笑顔を浮かべる。
「褒めすぎですよ。……嬉しいですけどね」
ベリルの胸がどきんと高鳴った。彼の持つ空気がそうさせるのか、それとも見た目がシンディだからなのか。
分からないが、今は自分の気持ちを素直に表に出せる。
こんなにリラックスした気分には、ヒューゴといたときだってならなかった。
話は尽きることなく、ベリルはとても楽しい時間を過ごした。しかし、やがて足音が聞こえてきて、孤児たちが整列し始める。
「また、シンディが来てるんですって?」
院長である伯母の声が聞こえて、ベリルは慌てて立ち上がった。
「ごめんなさい。伯母様。ご挨拶もしないで」
「構わないわ。でも、あなたがこんなに頻繁に来るなんて。なにかあったの?」
「いえ、……そんな」
なんとなく後ろめたく口ごもると、院長はアンドリューの姿を認めてため息交じりに苦笑する。
「シンディ。侯爵様から聞いているわよ。大事な夜会があるのでしょう? しばらくここに来るのは禁止よ」
「え?」
「あなたも。お礼は今日の労働だけで充分です。ありがとう」
「……図々しく押しかけて、申し訳なかった」
なんとなく追い出される形で、アンドリューが先に外に出る。