エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
けれど時が経ち、ベリルもこの人生を受け入れる覚悟ができつつあった。
どうせ一番好きだったヒューゴとの恋は叶わないのだ。であれば、相手は誰でも同じ。精いっぱい王太子に気に入られるように頑張ることとする。
一瞬、アンドリューの姿が脳裏をかすめ、慌てて首を振る。
(なんであの人が……! 関係ないわ。あの方こそ、住む世界が違う人よ)
ベリルは扇を出し、口元を隠して咳ばらいをする。動揺してしまった自分を取り戻したくて、そのまま扇を上にあげ、対面に座る父からの視線を遮った。
*
今日の会場は、王城にある大広間だ。舞踏会をベースとしているようで、楽団が優雅な音楽を奏でている。
入場とともに名前を読み上げられ、父にエスコートされながら広間への扉をくぐる。
広間に出たとたんに、人の視線を感じた。
美しく着飾った令嬢やその付き添いが、シンディの名前に一斉に反応したのだ。
ベリルは思わず立ち止まってしまい、そこから一歩も動けなくなる。足がすくんだのだ。
こんなに多くの人から注目を浴びたことはないし、しかもそれは好意ばかりではない。嫉妬の視線も混じっている。