エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「これはこれは、ローガン王子様。ご機嫌麗しゅう。今日は我が娘も出席します。どうぞよろしくお願いいたします」
父もうやうやしく頭を下げた。
(この方がローガン王太子……!)
ベリルは息をのみ、そのあと、ドレスの裾をつまんで淑女の礼をとる。
そのとき、ローガン王子の口元が緩んだのが見えた。同時に、ぞわっと悪寒のようなものが走る。
「ほう。さすがは侯爵自慢のお嬢さんだ。大変に美しい」
下碑た笑い。――そんな風にベリルには思えた。だけど心の中で否定する。
相手は王子様だ。そんな下品な態度をとるはずはない。
「シンディ!」
父に小声で叱責され、ベリルは我に返る。
「あっ、……シンディ・ブラッドリーと申します。王太子様にご拝謁でき、感激ですわ」
「すみませんな。娘は殿下に見とれてしまったようです」
ははは、と場の空気を和ませようとする父を横目に、ローガンは頬杖をついたままにやりと笑うと、シンディを手招きする。
「堅苦しい挨拶はいい。隣に座らないか?」
その一言にあたりがざわついた。
王太子妃選びの夜会である以上、王太子は出席した令嬢に礼を尽くし、公平に話したり踊ったりして、最終的に相手を決めるのが筋だ。
ここで早々にひとりの女性を手元に置くのは会の趣旨に反するだろう。