エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
コネリーはすかさず膝をつき、ベリルの手に小さくキスを落とす。
「素敵なひと時をありがとうございます」
「こちらこそ。ありがとうございます」
洗練された動作に、ドキドキしてしまう。これが舞踏会になれた人の所作なのだろうか。
パチパチと小さな拍手の音が聞こえる。
見ると、ローガン王子がご機嫌な様子で、手をたたいている。
「見事。美しかった、シンディ殿」
「お言葉、光栄に存じます」
視線にいやらしいものを感じて、そそくさと礼をして下がる。
その間も絡みつくような視線を感じて落ち着かない。
王太子の花嫁選びという名目上、男性の参加者は少ない。令嬢の保護者や、城に仕えている文官たちがいるくらいだ。
全ての令嬢との挨拶が終わっても、ローガン王子はなぜか自分が踊ることはせず、コネリーをはじめとした自分の部下たちと踊らせるだけだ。
「シンディ殿」
さりげなく王子から距離をとっていたベリルだったが、王子の方から近づいてこられては、どうしようもない。
「これはローガン王太子様」
「そんなかたぐるしい呼び方などしなくてもいい。そなたは美しいな。集まった中でもピカ一だ」
「ピカ……?」
聞きなれない言葉にベリルは首をかしげる。王子は少し考えた後、「最も美しいという意味だ」と言い直す。