エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「隣に座らないか」

呼ばれて、彼の隣に腰を落とす。するとすぐに、後ろから腰に手をまわされた。

「……あの」

「酒は飲めるのだろう? 給仕! 早く持ってこい」

(王太子様だから仕方ないといえばそうだけど、態度が偉そう。すごく触ってこられて、なんだか……)

ベリルも必死に笑顔を向けているつもりだが、徐々に引きつっていくのがわかる。
容姿は抜群に美しいけれど、態度や話し方が苦手だ。

(ああどうか、彼には選ばれませんように)

もともとベリルは会話上手でもなく、ローガン王子との話は弾まなかった。
けれど彼はベリルを傍に置きたがり、他の女性と話しているときさえ、隣に座っていろと言う。
おかげで他の令嬢からはにらまれることとなり、散々だ。

時々、コネリーがやってきて助け船を出してくれるが、夜会の間、ベリルはずっと気分が悪かった。


「本日の夜会はこれにて終了です。王太子様のお相手となる方には改めてご連絡いたします。今宵はこのままお帰り下さい」

コネリーの挨拶に、ベリルはホッとして待ち構えていた父のもとへと向かう。

「王太子はずいぶんお前を気に入っていたようじゃないか」

「……そんなことないわ」

「まあいい。今日はご苦労だったな。シンディ」

馬車に乗って屋敷まで戻り、化粧を落としてベッドに滑り込む。
疲れで頭痛がしていて、何でもいいから休みたかった。

「でもこれで、終わったわね」

ベリルはつぶやいたが、これがむしろ始まりだったのだと気づいたのは数日後のことだ。

【シンディ・ブラッドリー侯爵令嬢を王太子妃候補とする】という通達が、父を通じて届けられ、ベリルは目の前が真っ暗になった。


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