エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「捕まっていないそうよ。さすがに城内はくまなく探したからいないと思うのだけど、城壁の中だけでも騎士団宿舎や訓練所、官吏宿舎などたくさんの建物があるでしょう? 紛れてしまったら分からないわね」

「被害はあったんですか?」

「そうね。……多くは明かしてないんだけど、あなたは王家の人間になるんですものね。教えてもいいかしら」

神妙な顔で頷かれて、ベリルは少し焦る。興味本位で訪ねてしまったが、これは知らない方がいいことなのかもしれない。

「明かせないことなら無理にはお聞きしません」

だが、それを気遣いととった王妃は、緩やかな微笑みを浮かべる。

「あなたは美しく勉強家なだけじゃなく、つつましい面もあるのね。いいのよ。未来の王太子妃ですもの。……盗まれたのは、宝石よ。いつからかははっきりした記述がないのだけど、昔からこの王家の宝物庫にあったエメラルドの宝玉。けれど身に着けたものには災厄が訪れるという言い伝えがあるの」

「エメラルド?」

血がすっと下がっていく感覚があった。
シンディが賭けポーカーで手に入れたエメラルドのネックレス。
自分とシンディの顔を入れ替えるという信じられないことを巻き起こした魔石。

「……まさか」

「そう、まさかでしょう? ただその言い伝えのこともあり、通常の宝物庫とは別の場所で保管していたの。だから警備も甘かったのね」

< 67 / 186 >

この作品をシェア

pagetop