エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
そんな日々が、しばらく続いた。
侯爵家での家族の食事の時間、話題はもっぱら王城でのシンディの評判だ。
美しく勉強熱心であり、最高のご令嬢だと、父は王妃殿下から直接お言葉をいただいたのだそうだ。
父と母は楽しそうに話しているが、ベリルとしては褒められなれていないのでなんだか居心地が悪いし、ベリルの顔を持ったシンディもおもしろくなさそうに、せわしなく口に食べ物を運んでいる。
だが、ふと顔を上げると、ベリルの胸元を飾る首飾りに目を引かれたようだ。
「シンディ姉さま、それ、素敵ね」
「え? ああ。王太子様にいただいたの。申し訳ないけれど、これはあげられないわ」
ゴテゴテと装飾過多な首飾りで、『シンディをもっと美しく見せるために』と言われてもらったが、鎖骨に張り付くようなデザインがあまり好きではない。
久しぶりにシンディの方から話しかけてくれたので、「……部屋に来ない? ベリル」と声をかける。
顔が入れ替わって以来、なかなかふたりきりになろうとしないシンディとも、一度真剣に話し合いたかった。
このまま、みんなを騙して結婚してしまって、本当にいいのか。
ふたりはシンディの部屋に入り、しばらく誰も来ないようにと人払いをした。
シンディは、かつての自分の部屋を懐かしそうに見つめる。