エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「大丈夫です。まあそう言われても、こんなところに入ったことはないでしょうから不安でしょうが。こちらの階段を上にあがって一番最初の扉を開ければ、二階の通路に出れます。そのまま勉強のお部屋に戻られても結構です。私からの説明を聞こうという気があるならば、こちらの部屋でお待ちいただけませんか?」
示されたのは、使用人通路から直接つながっている部屋だ。コネリーはかかっていた鍵を開け、ほんの少し隙間を作る。
「使用人の控室のひとつですが、今は私が借り上げています」
「借り上げ……?」
「あなたはローガン様の婚約者だ。それにふさわしい器量もあります。私としては、ぜひ、本当のローガン様のお相手としてあなたにここにいてほしいのです」
「本当の?」
見上げたベリルに、コネリーは微笑みを返す。
「待っていてくださるなら、中から鍵をかけてお待ちください。まずは事を荒立てないよう、王子を何とかしてきます」
そう言って、コネリーは出て行ってしまった。
部屋の中は、明かり窓から差し込む光以外は無い。それでも、部屋の中が見回せるくらいの明るさはあった。
ベリルは言われた通り、内側から鍵をかけた。
ここは使用人の休憩室らしく、白いクロスがかけられたテーブルに、木製の椅子が六脚セットされていた。クッションなどはなく、座ると固い。
「……誰だ?」
部屋の奥から声がして、ベリルは驚いた。
「だ、誰っ?」
慌てて戸口まで下がり、部屋の奥の黒い塊に目をやる。
「女性……? すまない。驚かせるつもりではないんだ。その……」
ベリルは息をのむ。声に聞き覚えがあった。それにその話し方も。
彼が体を起こし立ち上がる。明かり窓から差し込む光がその全貌を映し出した。
「……アンドリュー様!」
「シンディ殿? どうしてここに」
「あなたこそ」
そこにいたのは、まぎれもなくベリルが孤児院で出会ったアンドリュー・フックだったのだ。