エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「シンディ、ベリルったら家じゅうの宝石を持っていこうとしているのよ。あなた、一体どこにやったの? 私が旦那様から頂いたネックレスまで!」
「もうないわ。いいじゃない、宝石のひとつやふたつ。私が幸せになるのとどっちが大切なの?」
もはや、シンディはベリルになりきることも忘れているようだ。
ベリルは「お母さま、ここは私に任せて」と告げ、嫌がるシンディを部屋まで連れて行った。
心配そうに見つめる使用人たちを部屋から出し、ふたりきりになったところでようやく息をつく。
「落ち着いて、シンディ姉さま。何があったの」
本当の自分の名で呼びかけられて、シンディは身じろぎをした。
「ベリル」
「ひどい顔よ。どうしたの? 大好きなヒューゴ様と婚約して幸せなんでしょう?」
しかし、ベリルは怯えた様子でシンディを見つめ、次の瞬間、いら立ちをあらわにした。
「駄目なのよ。ベリルだから。愛してもらうのに宝石がいるの。ヒューゴの望むものを与え続けなければ愛されない。ベリルだから」
「落ち着いて、シンディ」
「魔石に願ったの。ヒューゴの愛がほしいって。そうしたら私の頭の中に『彼に宝石を渡すように』と声がしたわ。対価がないと叶わないから。だから私……」
だから、家じゅうの宝石をヒューゴに捧げたというのか。