エメラルドの祝福~願えよ、さらば叶えられん~
「シンディ姉さま」
震える声で名前を呼べば、シンディは手近にあった書物を投げつけてくる。
「触らないでよ! どうして? どうしてなにもかもうまくいかないの。私が欲しいものは彼だけなのに」
暴れるシンディを押さえようとしたが、ベリルの力だけでは無理だ。
仕方なく、ベリルは彼女の頬を思い切り平手で打ち付けた。
今まで誰にも殴られたことのないシンディは、ふらふらと床に崩れ落ち、頬を押さえながら驚愕の表情でベリルを見つめる。
「何するのよ。ベリル!」
「正気になってほしいからよ! シンディ姉さま、矜持を忘れてはならないわ。私たちは侯爵家の人間なのよ。こんな……我を忘れて騒ぎ立てるんじゃなく、落ち着いて話しましょう?」
侯爵家の人間、という言葉でシンディもハッとしたようだ。恥じるように目を伏せ、唇を引き結んだ。
ベリルは彼女にゆっくりと近づき、その頬に触れる。
「いたっ」
「ごめんなさいね、姉さま。でも思い出してほしいの。姉さまはいつだって自信たっぷりで美しかったわ。私の憧れだった。どうしてそんなにおびえているの? ヒューゴ様と何があったの? これまで起こったことを私に教えて」
「……ベリル」
「私は絶対に姉さまを見捨てないわ、たったひとりのお姉さまだもの。だからお願い、ちゃんと話して」
抱きしめながらそういうと、シンディの体が小刻みに震え始める。少し体を離して顔を見つめると、
シンディはぽろぽろと涙を零していた。