先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~

憔悴しきっていた花笑を思うと、その後、操と会うのは憚られたし、会うと怒りが再燃して話にならない気がした。
だから事の真相も聞けずじまいだったのだが、花笑が営業部に移動してきたとき、操が一枚咬んでるとは思っていた。

「私もあの後特に言い訳するつもりも無かったから別にいいんだけど。真相を言わなかったのは、愛する男を取られたちょっとした腹いせね」

フッと笑い横目で見てくる操にちょっと焦る

「おい…」

「冗談よ。…ただ、終わった事だと思っていたけど、そのせいで今でも私を怖がってたなんて、あの子には悪いことしたわ。」

「お前…」

「ねえ、航、あの子がいなかったら私達まだ続いてたと思う?」

「何を突然…」

「ちょっと思ったのよ、あの子がいなかったら私達どうなってたかなって…」

「……」

付き合っていた頃に思いを馳せてみる。

操とは同期で、部署は違えど刺激し合い切磋琢磨する間柄だった。
それがいつの間にかお互い意識し合うようになり、自然と付き合うようになっていた。
馬が合うというのか、知的な操と一緒にいると楽しかった。
ただ、お互い気が強いから些細なことでも喧嘩は絶えず、その上最後の方は仕事が忙しく会う回数も少なくなり、冷戦状態のまま別れた。

まあ、操にとっては花笑のこともあったのだろう。
その頃、花笑はかわいい教え子から後輩になったというだけの存在でしかなかったのだが…。

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