先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~
今日はもう終業時間は過ぎているけど少し残業をしていた。
航さんは外回りに出かけていてまだ戻らない。
直帰じゃないから会社に戻ると思うのだけど、戻ってきたら一緒に帰れるかな?なんて思いながら一息つくために飲み物を買いにリフレッシュルームに向かっていた。
角を曲がり直ぐのリフレッシュルームに入ろうとしたら、突き当りの非常階段に入る人影が見えた。
「航さん?」
あの高身長の後ろ姿は航さんに違いない。
なんとなく気になって後を追ってみた。
そっと扉を開けようとしたとき女性の声が聞こえた。
「…私、山片課長が好きなんです。お付き合いしてもらえませんか?」
「っ…」
聞いた途端声を出しそうになって片手で口を覆った。
まさか…こんな場面に出くわしてしまうとは…。航さんの後を追うなんてしなきゃよかった…。
立ち去りたいのに足が震えて動けない。
「…はぁ、何を思ってそんなこと言うんだ?あんたとはほとんど接点はないと思うんだが?」
「わ、私は山片課長のことずっと見てきて、素敵だなって思ってました。社員旅行の時のトラブルもかっこよく立ち回って解決したって聞いてますます好きになったんです」
「…トラブルの解決は俺だけが動いたわけじゃない。変に脚色しているが噂に踊らされてるだけじゃないのか?」
「でもっでもっ好きなんです!」
「っおいっ」
ぽすっと音がして慌てた声の航さん。
女性が抱き着いたんだと理解した瞬間弾かれるようにその場から走り去った。