先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~
もうすぐ誕生日というときに出張が入ってしまった。
地方の製造工場の視察と新規取引のための交渉で月曜日から4日間。しかも帰りは誕生日の次の日。
「誕生日はケーキもご馳走も私が作るからね!」と張り切っていた花笑ががっかりするのが目に浮かぶ…。
「じゃあ山片くん頼んだよ。日野くんと共に先方との交渉、上手く取り計らってくれ。」
「あ、はい」
小野田部長に言われ、生返事をしてしまい怪訝な顔をされる。
「どうした山片くん、気が乗らないかね?」
「あ、いえ。そんな事はありません」
「でも、何か引っ掛かることがあるんだろ?」
いつもは影の薄い部長だが、勘の鋭さとここぞというときの統率力には頭が下がる。尊敬できる部長だ。
今も見抜かれて思わず吐露してしまう。
「いえ、出張4日もいるのかなと…」
「何か予定でもあったか?」
「あ~、まあ、ちょっと…」
「山片くんにしては珍しく歯切れが悪いな~。なんだ、プライベートか」
「はあ…」
くくくっと含み笑いをする部長に居たたまれない。
「ま、詳しくは聞かない。先方はわざわざ来てくれるって言うんで歓迎もかねて飲み会なんかもするらしい。工場も分散していくつかあるからな。全部見せたいんだろう。ただ、交渉さえ終われば今後の予定があるからと早めに切り上げても構わないよ。大事な要点だけは押さえて視察をしてくれれば問題ない」
「そうですか。ありがとうございます」
ちょっと希望が出てきたと、部長に頭を下げる。
「帰って来たら詳しく聞かせてもらおうかな?視察とプライベート。」
「う…はい。よい報告が出来るよう努力します…。」
茶目っ気たっぷりに片目を瞑りニヤリと笑う部長。
やっぱり部長には頭が上がらない。タジタジになりながら返事をした。