先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~
キスマークの勇気
今日のお昼には帰るので、航さんの育った町が見たいと、散歩に出かけた。
昔ながらの雰囲気が漂う開店前の商店街。
「ここが魚屋で貴章の家、こっちが酒屋で正晴の家、こっちのスーパーがおしゃべりの日野のおっさんの店・・・」
昨日駆けつけてくれた人たちの家を一軒一軒教えてもらった。
他にも通った小学校、よく行った図書館、そして航さんの大好きな海。
手を繋ぎながら浜辺へ出て海沿いを歩く。
「風が冷たいけどいい景色だね。」
「ああ、夏はここに毎日泳ぎに来たり釣りをしていた。もう少し先にある港の堤防はよく釣れるスポットなんだ。」
昔を懐かしむ航さんは穏やかな顔をしていて、ここで楽しい少年時代を送っていたんだと私も感慨にひたった。
たっぷり散歩をしてそろそろ帰ろうかと、さっき通った公園に戻ると子供たちの元気な声が聞こえた。
お揃いのエプロンと帽子を被った10人くらいの子供たちに、大人が3人ほどいて、保育園の子と先生達の様だ。
遊んでる子どもたちを微笑ましく見ながら通り過ぎようとしたら「航にぃ…」と声がした。
見ると保育園の先生の一人がこちらに近づいてくる。
「雅美」
航さんが呟いて、この人が昨日言ってた雅美さんだとわかった。
繋いでた手を離そうとしたけど航さんは離してくれない。