先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~

「俺がなんだって言うんだ?お前は俺のことひとつも考えてないだろ!」

「そんなことない!」

「何がそんなことないだ!」

腕を振り暴れる雅美を後ろから抱き締めた。
大人しくなったと思ったら、俺の腕に水滴が落ちて、それが雅美の涙だと震える肩が教えてくれた。

「私は……この街が好きだし、友達もいるし、それに、海斗が……」

「だから、俺がなんだよ…」

「……海斗が、立派なお寿司やさんになるの見ててあげるって言ったから…。航兄さんにも頼まれたし…。私がここを離れられないのは海斗のせいだから!」

「……」

肩を震わせ泣く雅美を抱き締めたまま、考えを巡らす。
雅美は兄貴が好きだと言いながら、俺が立派な寿司職人になるのを見届けると子供の頃の約束を守ってここにいる。それって…。

「それってお前……兄貴より俺を取ったってことか?兄貴を追いかけるより、俺の傍にいることを選んだんだってことだろ?」

「……」

震えてた肩がぴたっと止まった。

「え……え?そうゆうこと?航兄さんより海斗を取ったの……?」

「なんだよお前、自分で言っといて解ってないのかよ…」

脱力して雅美の肩に頭を預けた。

「だって……海斗バカだからすぐ遊び呆けるじゃない。だから私が見張ってないとと思ってほっとけなくて………」

「バカやろ。ちゃんと修行してるっつの。」

「う……」


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