先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~
「え?婚約してるんですか?なんだ、残念だな~素敵な人を見つけたと思ったのに」
そう言いながら私の左手を取りマジマジと指輪を見ている。なんとか手を引こうとしてもガッシリ掴まれて引くに引けない。それになぜか頭がボーッとしてきた。
「いや~松崎さんを射止めた人がうらやましいなあ、一緒に来てると言うことは社内の人ですか?」
「え、ええ……」
「会ってみたいな、どこにいるんですか?」
と言いながら探す素振りも見せず、話しながら手を撫でグイグイ来る渡辺さんにどうしていいかわからない。
「私ですが?」
「えっ!」
「航さん」
私の後ろからスッと出てきたのは挨拶回りに行っていたはずの航さん。眉間にシワを寄せて渡辺さんを見ている。渡辺さんは両手を上げやっと私の手を解放してくれた。
「えっ、えっ?山片さん?松崎さんの婚約者…」
「そうですよ。渡辺さんお久しぶりです。彼女の相手をしてくれたようでありがとうございます」
私の肩を引き寄せられ、ホッとして航さんによりかかった。
脱力してる私の様子がおかしいのに気付いて顔に触れられ、その手が冷たくて気持ちいい。
「どうした?花笑、顔が赤い…まさか、酒飲んだのか?」
「え?アイスティーとこのオレンジジュースしか飲んでないけど…?」