先輩の恋人 ~花曇りのち晴れ渡る花笑み~
やっと落ち着いたと思ってデスクに戻ると、西川さんが待っていた。
「さ、松崎さん行くわよ、ゴ・ウ・コ・ン」
やっぱり諦めてはいなかったか。
先ほど山片課長に言われた事を理由に断ることにする。
「西川さんすいません、課長から残業するように言われて行けそうにないです」
「なんですって!そんなの夏野さんにでも…!」
知佳ちゃんにでも残業代わってもらいなさいとでも言いたかったんだろうけど言葉が途切れた。
西川さんは固まって青ざめている
「い、いいわ今日は……じゃお先に…」
といって西川さんは帰って行った
どうしたんだろうと思って後ろを振り向くと、こうくんがこちらを見ていて、目が合うとニッと不敵に笑ってから、逸らしてどこかへ電話をし始めた。
こうくんなんかした…?首を傾げる。
後ろを向いていたから課長が鬼の形相で西川さんを睨んでいたのを花笑は知らない。
「西川さんすんなり帰ってくれて良かったですね」
知佳ちゃんが話かけてきてそちらを向くとびっくりした顔で
「えっ花笑さんどうしたんですか?」
「えっ何が?」
「涙目で目が赤いですよ!はっ、まさか課長に一人で怒られてたとか?!」
「え、えっと何でもないよ!大丈夫!目にちょっとごみが入っただけだから」
あわてて涙をぬぐって笑った。
この分だと顔もまだ赤いかもしれない。
「ほんとですか?課長にひどいことされてません?」
「そっそんなことされてないから!」
さっきの事をまた思い出しそうになって
「大丈夫大丈夫」と自分に言い聞かせて深呼吸した…
まだジト目で見てくる知佳ちゃんに
「ほら知佳ちゃん終業時間とっくに過ぎてるから」
と急かして残業手伝いますというのも断って、帰るように促した。
「わかりました、じゃお先に帰りますね」
「うん、知佳ちゃんお疲れ様」
諦めて帰ってくれることにホッと胸を撫で下ろした。
これ以上動揺してるところは隠せない気がした。