セナカアワセ
映画みたいな話だけど、会長の目を見たら、本当に願っているような目をしていた。



由果ちゃんのさっきの態度を思い出すと、腸が煮えくり返るような思いになったけど、それ以上に遙人の傷の方が絶対に痛い。



きっと、誰よりバスケが好きだった。



やりたくて、やりたくて、それを本当は由果ちゃんにも分かって欲しかった。



でも、突然の事故と突然の言葉に、遙人の心が壊れてしまった。



今、



何を考えているの?



遙人、



1人じゃないからね。





寒空の下を全速力で走る。



息が苦しくなるけど、早く行きたい気持ちが強くて足は止めない。



公園のバスケコートが見えると、



コートに1人しゃがみ込む人影。



私は走っていた足を止めて、ゆっくりその影に向かって歩き出した。



私より大きい背中が、今日は小さく見える。



「、、、、、、、、、遙人。大丈夫?」



私が声を掛けると、私に背を向けたまま頷いた。



私は遙人の前に座り込むと、ギュッと遙人の手を握った。



「、、、、、、冷たい。」



「、、、、、、、ごめん。」



「走ってきたの?」



「うん。遙人が泣いてるかもって思って。」



「泣いてないよ。」



「でも、心は泣いてる。」



私がそう言うと遙人が顔を上げた。



「会長に、聞いたの?」



「、、、、、、うん。」



「そっかーーーー。あーあ、握られちゃったなー。俺の弱み。」



そう言って笑いながら私を見る。



「俺の弱みはこれだよ。縛られた過去。もう、二度とバスケが出来ないこと。」



そう苦笑いする顔が見ていられなかった。



遙人が苦しいはずなのに、私の胸も痛む。



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