【完】さつきあめ
「久しぶりじゃん」

「えぇ。久しぶり…。このお店にくるなんて珍しい…わね…」

「まぁ~、ちょっとねぇ。
えっと君は?」

綾乃の隣に座ってた美優を指さしながらグラスを揺らした。
散りばめられたダイヤが揺れて、少しだけ眩しい。

「シーズンズの美優ですぅ~。会長おつかれさまでぇす」

ビンゴ。予感が確信に変わる。

目の前にいるのは 宮沢 朝日。あの頃何度も聞いた名前。
一時も目を離せずにいた。…この男が。
美優の隣にいたわたしに目配せをして、綾乃に尋ねた。

「美優の隣にいるのは?」

「シーズンズの新人のさくらよ」

「え?」

「‘さくら’だってば」

「さくら……」

誰にでも過去があって、傷があるということをわたしはどれだけわかってあげられていたのだろうか。
朝日は‘さくら’と独り言のように繰り返した。その瞳は虚ろで何も映っていないようにも見えた。けれどそれもすぐに軽薄そうな笑顔に戻って「シーズンズのさくらか」と再びわたしの顔を見つめる。


「宮沢さん、驚いた?」

「何が?」

「いえ、別に、あなたでも自分の犯した罪の重さに苦しむ日があるのかなって何となく思っただけ」

「綾乃の言ってる意味がわっかねぇなぁ~。ま、楽しんで。
さくら、シーズンズで頑張ってね」

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