【完】さつきあめ
綾乃と朝日の会話にわたしと美優は入ってはいけなかった。
じゃあ、と朝日は手を挙げて、お店のVIPルームへと消えていく。
その背中に嫌悪感と憎しみ。そして不思議な感情が芽生える。



「綾乃って会長と仲がいいんだねぇ~」

「は、やめてよ。あたし嫌いなのよあいつ。

それよりさくら、あんた気を付けた方がいいわよ」

「え?」

ふぅ、っとため息をはいて煙草に火をつける。
煙をはいた後こちらを一瞥して、またため息。

「あんたってあいつのタイプなのよ」

「まさか!」

「わたしはあいつを昔から知ってるの。だからわかるのよ。
あいつは利己的で計算高くて、すごく嫌なやつ。でも自分が気に入ったものは玩具みたいに手に入れないと気が済まない質なのよ。
気に入った玩具をぼろぼろになるまで遊んで捨てないと気が済まないのよ。

ONEのナンバー1さんはいつまでもつかしらね」

宮沢 朝日。

28歳にして七色グループの会長についた男。ようするにオーナーだ。
それだけのやり手の男ではあるけれど、綾乃の言う通り女関係は相当酷いらしい。
噂ではそんな男の今の女がONEのナンバー1のゆりだった。
ふたりがそういう関係であること。
それはグループ内では暗黙の了解であること。


わたしはすべて知っていた。

全部知っていて、ここにやってきた。 彼と、そして彼女と戦うためにここにやってきた。
でもわたしのしようとしていたことに何の意味があったというのだろう。
あの頃は憎しみの中でしか生きれなかった。
でもいまは違うよ。守りたいものと守りたい人のためにわたしは生きている。
でもこの場所は居心地が良ければ良くなるほど、息が苦しくなるの。

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