【完】さつきあめ
「誰ですか?」 次の日、お店に出勤して1番に会った高橋の開口1番はそれだった。
昨日美優に教えてもらったメイクをメモ通りやってみた。勿論ネットでも調べたりして自分なりに工夫してみた。まずは自分を知ることから。案外自分は手先が器用なのかもしれない。見様見真似でしたメイクは思いの外思いの外上手くいったからだ。
そしてセットのお姉さんにもアップヘアをお願いした。自分の顔が好きじゃなかったから、前髪で隠していた髪も上げてもらったら、「さくらちゃん美人だったんだね…」と真面目なトーンで言われた。

高橋はまじまじとわたしを見つめ、うんうんと感心したように頷いた。

「まぁ綺麗になるとは思っていたけど、ここまでとはなぁ…」

「え?!やめてよ!わたし冗談でもそういう風に言われると顔赤くなるんだからっ!恥ずかしい!」

わたしは高橋の担当の女の子。だから褒めるのはおそらく当然。そうやって持ち上げて仕事をやる気にさせたりするんだろう。この仕事の経験はないくせにそんな考えはすぐに思いつく捻くれた自分の性格にはいい加減嫌気がさす。
でも今まで言われたことのないことを言われたらお世辞でもすぐに照れてしまうんだ。
馬鹿だなって思う。
両頬をおさえて、火照った体の熱が冷めるのを待つ。

「いや、俺お世辞とか言いませんから~!
こんなに綺麗な子を見るのは久しぶりだ…」

神妙に呟く高橋のその言葉に冷めかけた熱が一層帯びて、思わず顔を隠してしまう。
ほんと、こいつスキンヘアのくせにホストみたい。
夜の男ってテレビで見るホストと雰囲気も似ている人が多いけれど、女の扱いも一級品だ。

「やめてってば!」

「え。照れてんの?」

茶化すように顔を覗きこんで、わたしの顔を左右から覗き込もうとするから「やめろ!」と言って、背中を拳でどついた。

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