【完】さつきあめ
「えー、戸川さんに会いたいなぁ~って思って
うんうん。絶対来てー」
THREEに着いてすぐに更衣室に行くと、鏡台の前に座って凜が営業電話をしているところだった。
その電話を切って、すぐに携帯を真剣な顔で見つめ、何かを打っている。きっと営業ラインか何かを打っているのだろう。
「おはようございます」
「おはよ」
こちらを向かずに、携帯に向き合ったまま挨拶をした。
凜は悪い奴ではない。光が言っていた通り、きつい性格ではあったが、この人の事が特別嫌いではなかった。
1ヵ月彼女を見ていて、勉強になることは沢山あった。
お客さんの趣味に合わせてゴルフをし始めた事。
毎日欠かさずお客さんと連絡を取り、話題に困らないように彼女はいつも新聞や話題の本に目を通す。
かなりの努力家なのだ。
それを察されないようにはしているのだが、影での努力はさすがナンバー1と言わざる得ない。
そこはゆいと正反対で、ゆいと凛、どちらかと言えばわたしは凛と同じタイプだったと思う。
「凛さんは毎日お客さんに連絡してるんですか?」
「当たり前じゃない。フリーで着いたお客さんにも全員朝から連絡してるわ。
どんなに連絡しても連絡さえ返してこないお客さんもいるけど…」
「すごいですね」
「まぁあたしは…悔しいけどゆいみたいに天才肌じゃないからね」
仲が悪くたって、ゆいの実力は認めているらしい。
彼女は原田とゆいの関係を知っているのだろうか。
わたしは何となく、気づいているのではないかと思った。
それでも一途に原田を想う、凜の気持ちが痛かった。