【完】さつきあめ
「はっはっはっ、反応がやっぱり面白いなー!」

「やっぱりからかってるんでしょう!」

「いやいや、まじで綺麗だと思う。 俺は社長ほどさくらに期待はしてなかったんだけど」

‘社長’その言葉が出た瞬間また動揺。
でもどうしてあの人の名前が出るだけでこんな気持ちになるんだろう。
その感情に色々な名前をつけようとしたけれど、今にして思えばただ単純に一目ぼれだったのかなと気づいたのはずっと先のことだった。
光の持つ容姿を含めて、雰囲気とか、彼を彩るすべてを…男の人のことを意識したことのなかったわたしにはこの感情になんと名前をつけていいのかわかっていなかった。でも今思えば、出会った日からずっと、光はわたしの初恋の人だった。


「あのさぁ…」

「え?」

「きっとさくらは感情豊かな人間なんだと思う。さらに素直なんだろ。
それってすっごく良いことだと思うし、俺や深海さんとかから見たらすごく羨ましいんだと思うけど、ひとついいかな?」

「え…何?」

「社長を…有明さんを好きになるのはやめた方がいいよ」

「わたし…社長のことなんか好きじゃない!
社長のことなんかよく知らないし、好きになるなんておかしいよ!」

「いやいやさくらが社長を好きにならないんだったら別にどーでもいいことなんだ。
まぁ社長は俺から見ても超かっこいい男だしさ、女の子が好きになるのも当然だと思うんだ。でもさくらがこの仕事で、この店で頑張りたいっていうなら、社長のことを好きになるのは絶対にだめだ」

何で?そう言いかけてやめた。
それじゃあまるで、いつか自分が社長を好きになるって言っているようなもんだから。

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