【完】さつきあめ
「全然嬉しくなさそうだな」

高橋が苦笑しながら言う。
ソファーに寄りかかりながら、煙草に火をつけふーっと天井に吐き出す。

「俺は待ってるのかと思った」

「待つ?」

「今日社長が来てくれることを、さ。
さくらはずっと、今も待ってるんだと思ってた」

高橋の吸っていた煙草を奪い取り、大きく肺の奥まで吸い込んだ。

「ゴホッ」

「馬鹿か、お前」

「まず…。こんなん吸ってるなんて人間じゃないよね…」

口いっぱいに煙草の嫌な味が広がる。
あの日を思い返していた。



「お前は毎日俺の機嫌とって、俺の前で尻尾ふって、ただ俺の物でいればいい」

あの日、冷たくわたしを見下ろした朝日におしぼりを投げつけた。
一瞬怒った表情になった朝日は、わたしの右手を強く掴んだ。

「いた……」

殴られる、と思って思いっきり目を瞑ったら、その手の力は段々と緩んでいった。

すると自分の財布を取り出し、中からレシートを取り出し、その裏に何かを書いた。そして、それを差し出した。

「これ…」

「有明が女と住んでる住所。お前の時と同じ女を送り迎えしてるぜ?
嘘だと思うなら有明の仕事が終わる時間に行って見ろ」

< 363 / 598 >

この作品をシェア

pagetop