【完】さつきあめ
「すいません、タクシー一台お願いします」
光が携帯を手に取ってそう言った。
「ヒック…くッ…。
いい…ひとりで…帰れる…」
「帰るって…まだ暗いだろ…」
「そんな中途半端な優しさはいらないんだよ!」
「夕陽!!」
大きくわたしの名を呼ぶ声が聞こえたが、それを無視し、走り出した。
たとえ離れていたって同じ気持ちでいる。それはただのわたしの幻想だった。
悲しくて、悔しくて、裏切られた気持ちでいっぱいで、初めて誰かを好きになって、あんなに日常に宝物のような感情があるのを知って、だからこそ、それを知ってしまったからこそ、こんなにも苦しいよ。
「う、ヒック…、光………」
どんなに想っても、届かない物があると知った18歳。
どんなに願っても、どんなに努力しても、自分の無力さを知った19歳の始まり。
わたしはもう、光を待つのを止めていた。
目標の1つとして、光のためにナンバー1になろうと思った。
でも今は光を見返すためにナンバー1になりたいと気持ちは変わっていった。