【完】さつきあめ

「待つ、なんてばかばかしくて」

「さくらはやっぱり変わったな」

高橋の言葉に水を一口飲んで、微笑みを落とす。

「あたしは高橋くんの思った通りの女になれたのかなぁ…。
高橋くんも自分の出世のためにあたしを利用していたんでしょう?
この世界は皆そう、男のために女が泣いて、その涙の上で成り立ってる…」

ソファーから立ち上がる。
酔いも随分さめたような気がする。

「さくら、家まで送っていくよ」

「いい…。明日プレゼントだけ家に運んでもらえる。
と、この花束だけ貰って帰ろうかな」

派手なスタンド花の中に、ひと際目立つ花束があった。
白がいい、と言ったのに、その白い花たちの中でたった1つ押しつけがましいほど主張している場違いな青い花。名前も無く、送られた青い薔薇。何となくこれを贈った人物に見当がつく。

「スタンド花のが華やかに見えるけど、実際青い薔薇100本の方が金かかってるよなぁ。
さくら、薔薇好きなの?」

「花の中で、1番嫌い。
1番偉そうで、目立って、何かむかつくから」

そう言い残して、お店を出た。

両手で花束を抱えると、むせかえるような匂いが鼻いっぱいに広がる。


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