【完】さつきあめ
「ハッピーバースーデートゥユー
ハッピーバースデーディアー、、」
そこで歌は止まる。
大きな薔薇の花束で目の前は見えない。
けれど、そこにいる人の予想は何となくついた。
「どうも…」
「でっけー花束を抱えてる女がいるなぁ~、と思ったら、やっぱりさくらか。
誕生日おめでとう」
「ありがとうございます。偶然会った風に装ってますけど、絶対待ち伏せしてましたよね?」
「ストーカーみたいに言うなよ」
わたしの手から花束を奪い、朝日が笑った。
3月の終わり、もう春がそこまでやってきていた。
朝日はわたしの隣に並び、足並みを揃えるようにゆっくりと歩く。
「白い花が1番好きなんだけど、空気読まずにこんな派手な花を贈ってくる人がいたから、思わず持ってきました」
「薔薇100本とかロマンチックな奴だな。お前、そういうの好きだろ」
「ロマンチックなのは好きですけど、薔薇は嫌いなので、贈った人は相当趣味が悪いと思いますけどね。まぁ、赤じゃなかっただけマシですけど」
「ちっ」
朝日は大げさに舌打ちをして、薔薇の花束を乱暴に上下に傾かせる。
「こんな派手な事するの、宮沢さんだと思いましたよ」
「俺からの花ってわかってて持ち帰ってくれるなんて嬉しいねぇ」
「あまりにも趣味が悪すぎて目についただけですけどね」