【完】さつきあめ
「可愛くねー。
さくらは青い薔薇の花ことばって知ってる?」
「あなたと違ってロマンチストではないので知りません」
「お前は言い方にいちいち棘があるよな、薔薇を贈って良かったわ。
青い薔薇の花ことばは、‘不可能’」
わたしの方へ花束を向け、不敵な笑みを浮かべてそう答えた。
向けられた花束から1本だけ薔薇を抜き取り、顔を近づけじいっと見つめる。
「不可能なんて花ことば、まるでわたしにぴったりですね。嫌いだったけど、少しだけ好きになりましたよ」
不可能。
思えば不可能な事ばかりだった。
わたしは朝日たちに勝つためにこのグループに入ったのに、結局は朝日に振り回されて、そして大好きだった人も失った。
夢を持てば失われて、幸せになろうと足掻けば足掻く程、遠く見失った。
「青い薔薇は元々生み出す事は難しいって言われていたんだ。
だから花ことばも不可能だったんだって。
でも14年かけて青い薔薇を生み出す事に成功したんだ。
それから、青い薔薇にはもうひとつ花ことばが加えられた」
「もうひとつ?」
「‘夢かなう’」
朝日の言葉を聞いて、ふっと小さな笑みがこぼれた。
「不可能と夢かなうなんて両極端な花ことばがあるなんて、残酷ですよね」
もう、夢を見るだけじゃあ叶わない事はとっくに知っていた。
ひとつひとつの物事を知っていくたびに、悲しい気持ちになっていくばかり。
「何か腹空かね?」
「そう言えば…」