【完】さつきあめ
「あいつも、俺が地位や金を失えばいなくなるさ。
でもお前は…。
お前はたとえ有明が社長でなくなっても、金がなくなっても、あいつを好きなんだろうな」
「何で……」
何で、そんな事をあなたが言うの。
朝日はゆっくりとグラスを揺らしながら、わたしを見つめた。
「有明になりたいよ」
その言葉は、朝日らしくない弱弱しい言葉だった。
「随分と光と自分を比べるんですね。
でも、光にない良いところだって宮沢さんにはあると思いますよ。
人間ってそういうもんでしょう」
「朝日ー!」
その時お店のドアが開いて、キャバ嬢らしき2人組がお店に入ってきた。
わたしたちの姿を見て、朝日と呼びこちらへ向かってくる。
見たことのない顔だから、うちの系列の女の子ではないと思う。
朝日は顔を上げて、自分の名を呼ぶ女を見つめ顔をしかませる。
「朝日ー、久しぶり~!全然連絡くれないから寂しかった~!
元気なの~?」
「誰だ?」
「え、えみだよぉ?!」
「知らねぇな」
むすっとした顔のまんま、答えた。
キャバ嬢らしき女の表情は段々曇る。
「お前みたいな女知らねぇ。俺の視界から失せろ」
「何あいつ、ヤッた女の顔もわかねぇとか最低だな!」
女は捨てセリフを残し、お店を出て行った。
朝日は「おばちゃん、すまねぇな、客帰しちまった」と謝る。
韓国人の奥さんは柔らかく笑い「イイヨー」と言った。
イライラしながら、朝日は焼酎の水割りを一気に飲む。
その光景にふっと小さく笑みがこぼれる。