【完】さつきあめ
「何も顔見て逃げ出す事もないだろ」
座っていたカウンターからグラスを手に取り、ボックス席へ腕を引っ張られる。
仕方なくソファーに座り焼酎のお茶割りを注文して、はーっと大きなため息を吐く。
今日は厄日かもしれない。 それでも目の前の男は楽しそうに笑っている。
「今日は1人で?」
きょろきょろと辺りを見回しても、1人でカウンター席で飲んでるおじさんと、ボックス席で飲んでるらしきキャバ嬢とお客さんの姿しか見つけられなかった。
「俺が1人で飲んでちゃおかしいか?」
「いや、おかしかないですけど…」
既に酔っぱらっている。嫌な予感しかしない。
朝日はボトルキープしてるであろう焼酎を空いてるグラスに自分で注ぐ。
「キャバ嬢だっつのに気も利きやしない」
「時間外ですから。
それでもお酒作って欲しいならお金払ってくださーい」
「お前を貸し切りで指名出来るなら、いくら払っても痛くもねぇなぁ」
「前言撤回です。時間外はお仕事しません。
あ、ありがとうございまーす。
あ、相席ですけど伝票は分けてくださいね」
バーの店員が持ってきたグラスを受け取る。
「可愛くないやつ」
朝日は可笑しそうに笑いながら言った。
「それより、原田さんの事何とかしてくださいよ。
ゆいと凛さんのせいでお店の雰囲気が悪いったらないです。
…風紀なんですから」