【完】さつきあめ
「だってそんな、ゆりさん納得したんですか?!」

「納得するわけねぇよ」

煙草を取り出して、ふぅっと吸い込むとわたしに向かって煙を一気に吐き出した。

「ごほっ、何すん!」

煙草の煙が入ってむせるわたしに、朝日はまた楽しそうにあははと大声を出して笑った。

「嫌だって泣きわめくし、家の鍵も返さねぇし、本当に困ったもんだよ。
結局家の鍵も全部返してもらったけどな」

「嘘だ…絶対嘘…」

「嘘だと思うならこれから俺の家に来てみるか?」

にやりと笑う朝日。
ぶんぶんと首を横に振り、大げさに拒絶するわたし。その姿を見て、朝日はまた笑った。

「何でそんな事を……」

「だって約束したじゃん」

約束したじゃん。と平然と言ってのける朝日。
約束、という言葉を聞いて、また胸がきゅーっと締め付けられる。
光もわたしに待っててと約束した。でも結局その約束が叶えられるられる事も無かった。
それでも目の前の男はわたしとした約束を、叶えても欲しくない約束を、平然と守ってみせた。

「困りますよ…本気、なんですか…?」

伏せた顔。その隙間から朝日の顔を覗きこむように見る。

「本気じゃなかったら別れない。
大切にするよ。お前が望むものなら全部叶えてやるし、欲しい物もなんでもやる」

そう話す、朝日の瞳は真剣そのものだった。

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