【完】さつきあめ

「俺はお前に言葉だけじゃなくて、行動で示す」

言った通り、朝日は確かに行動で示してくれた。ゆりと別れると言って数日で別れて、今日も1人でバーに飲みに来ていた。光に比べてみても、やり方はめちゃくちゃだったかもしれないけど、これを誠実というのではないだろうか。
光は約束を守ってくれなかった。いつもわたしを置いて、どこか遠くへ行ってしまった。

グラスの滴が汗のようにゆっくりと流れていく。
わたしたちの間にも少しの沈黙が流れていく。


けれど…

「あたしは…どうしても宮沢さんではダメなんです」

「俺が有明じゃないから?」

「それだけの理由じゃないんです…」

忘れ得ぬ記憶の中で、大切な人が笑っていた。
あの人の事が好きなの。どうしても好きなの。
わたしはあの人がいないと生きている意味さえ持てないほど、あの人が好きなの。
そう言って、泣きながら笑っている。
彼女とわたしの目の前に薄紅の花びらがゆらりとゆっくり舞い散っていった。

わたしはあなただけは好きにならない。
彼女を失った日。決めた事。

「わけわかんねぇ!」

グラスに入ったお酒を一気に飲み干すと、再びお酒をグラスに注ぐ。
氷も入れず、水も入れずにほぼロック状態だ。

「宮沢さ…ん、あんまり飲みすぎると…」

「あぁ?!」

< 407 / 598 >

この作品をシェア

pagetop