【完】さつきあめ

威圧するような声と、ぎろりと鋭い目に睨まれて動けなくなる。…本当にこれじゃあただの暴君じゃないか。
あんまり飲みすぎると、あの日みたいに潰れてしまいますよ、とも言えずに、水のように酒をあおる朝日を見ている事しか出来なかった。
結果的に飲むだけ飲んで、朝日は予想通り潰れた。
あの人同じようにお店のソファーに安らかな息を息を立てて寝ている。

「こりゃ起きないわ…」

閉店だと言いに来たお店のスタッフが朝日の様子を見て言って、下まで運んでタクシーに乗せてくれた。

「あのどうすれば…」

そう言うと、「あんた、宮沢さんの女でしょ?」とさも当然と言った感じで無理やりタクシーに押し込められた。面倒くさそうにお店のスタッフに押し付けられて、朝日を送って行く事になってしまった。
タクシーの中でもわたしの肩に寄りかかり、安らかな寝息をたてる朝日。
何でこの人といると、こんな事にばかり巻き込まれてしまうのだろう。
光と一緒に飲んでいた時にこうやって朝日は潰れて、眠って、家まで送っていった。
だから家の場所は覚えていたから、とりあえずタクシーの運転手に行き先を告げて、車内でこの後の事を考えていた。

無理。絶対無理!
あの日は光がいたからこの大男を部屋まで運ぶことが出来た。
けれど今日は1人。現実的に考えて、わたし1人でこの大男を運ぶことは不可能。
タクシーの運転手さんに頼もうと思ったけれど、泥酔して今にも吐いてしまうのではないかと思う朝日を見て、あからさまに迷惑そうな顔をして、ミラー越しにちらちらとこちらを見ている。

巻き込むな、と言っているかのような視線で、申し訳なく肩を落とす事しか出来なかった。
それに…いくら潰れたからといえ、朝日のあの家に行くのは嫌だった。
朝日はゆりと別れたと言い、鍵も返してもらったと言ったあの家。
でもそれすら本当かはわからない。
もしもゆりと遭遇してしまったら、この間と違うふたりきり…。言い訳をしても信じてもらえる状況ではないだろう。

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