【完】さつきあめ
とにかく昨日とは打って変わり、穏やかで楽しい時間が流れた。
深海は顔に出さなくとも「頑張ってるね」と言ってくれて、綾乃も「すごいじゃない」と言ってくれた。

しかしそれを快く思わない人たちも勿論いた。

「うざーい」

帰りの更衣室。着替えていたら大きな声が響く。

振り向くとはるなと数人の女の子。
売上表を確認すると、はるなはグループ全体では下の方だったが、シーズンズではナンバー1だった。確かに新店ではあるが売り上げがいまいち上がらないことが深海さんの悩みだ、と高橋から聞いていた。

どんな小さな店であろうと、そこでナンバー1をはっているのならプライドは高くて当然。実際にはるなは昨日ヘルプでついたお客さんが言っていた通り胸も大きく、綺麗な女だった。

「ちょっと綾乃さんに気に入られてるからって調子にのるなって感じよね」

「てゆーか見てよ、あの靴。ボロボロ」

「だっさー、ワンピースが綺麗でも靴がださかったら台無しよね?」

クスクスとわたしをあざ笑う声が聞こえる。
けれどそれに立ち向かう勇気もその時はまだなくて、固まる体で、服に着替えるのが精いっぱいだった。 耳を突き刺すような言葉が聞こえても、鞄をを持ち逃げるように更衣室から飛び出すことしか出来なかった。


「さくら、おつかれ」

「さくら今日はおつかれ~!
今日場内2本とってすげぇじゃん!連絡先交換したろ?きちんと営業かけるんだぞ?」

更衣室から出ると、ホールでは並んで談笑をしていた綾乃と高橋がこちらに気づき、話をかける。
さっきあったことを悟られまいと笑って見せると、その様子に1番に気づいたのは綾乃で、こちらへ駆け寄るとわたしの腕を力強く掴む。

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