【完】さつきあめ

眠る朝日の顔を見て、その後にわたしとばちっと目が合う。
吊り上がった瞳が、垂れ下がったかと思うと、柔らかくわたしに微笑みをかける。

「宮沢さんじゃない。誰かと思えば」

わたしの顔を見て、その女性は低いトーンで言った。
知り合いか、はたまた朝日と関係してる女なのかと思った。
しゃがみこみ、再び朝日の顔を近づけ覗き込むと、ふっと小さく笑う。

「やだ、また飲みすぎ?
この人飲むとすぐ寝るくせに何でこんなに飲むんだろうね?」

ねっ?とわたしに同意を求めるように言って、また微笑んだ。

「1回寝ると、どんな事したって起きやしない」

朝日をよく知っているという口ぶりで、優雅な身のこなしで片方の腕で、朝日を支えるように起き上がらせた。
それに合わせて、わたしも立ち上がる。

「ほんとにどうしようもない人」

その華奢な女性は見た目よりもずっと力があって、2人でエレベーターの乗せる事に成功して、全てわかってる風に、朝日の部屋のある階のボタンを迷わずに押した。
綺麗目の水商売風の女性。朝日をよく知ってる風だったので、てっきり朝日の数多くのうちの女の1人だと思った。


< 410 / 598 >

この作品をシェア

pagetop