【完】さつきあめ

「ところで…」

「え?」

「着替えてきてもいいかしら?」

「は、はい、どぞー!遠慮なく」

「お店の恰好でいるのって肩張っちゃって」

そう言って首をぐるりと回すと、リビングから続くひとつのドアの向こうに消えていった。
かと思えば、部屋の中からがちゃがちゃがちゃとまるで何かを破壊するような音が聞こえて、しばらくするとピタッと止んで、由真の消えたドアがゆっくりと開いた。

「ふぅー、疲れた」

たったの数分で、着物を脱ぎ捨て、髪をおろした由真が現れた。
量販店で投げ売りされてそうな黒のスエットを上下に着て、ぴしっとまとめられていた髪を黒いゴムで1本にまとめていた。

「化粧も落としてきていい?」

「あ、もちろんです!」

そう言うとまたリビングから違うドアに消えていって、数分後、すっぴんの由真が現れた。
ソファーに腰をおろすと、ふぅーと大きく息を吐いて煙草を吸いだす。
びっくりした。
すっぴんでも綺麗だったけれど、化粧をしている時とは違い、えらく幼く見えたからだ。
さっきまでの雰囲気だと30代くらいに見えたのに、いまの方がずっと幼い。

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