【完】さつきあめ

さくら。由真がそう呼んださくらは、わたしじゃないということは、由真の表情を見て何となくわかった。
やはり、この人も過去の事を知る人だ。

「深海さんも言ってた、あたしはさくらさんに似てるって…
だから昔の思い出とあたしを重ねて、ただあたしを好きだって勘違いしてるだけなんです」

ふっと笑い、わたしの顔をじっくり観察するように見ると、再び煙草の火をつけた。
そしてハッキリ言った。

「さくらとさくらちゃん、あたしも似てるとは思わない」

誰もが同じ名前を持つわたしとさくらさんを重ねていたと思う。
でも目の前の人ははっきりとした口調で‘似ていない’と初めて口に出した。
そう思ったら立ち上がり、テレビ台の引き出しをおもむろに開けた。
中から何冊かのアルバムを取り出し、テーブルの上に置いた。

「これは……?」

「あたしは元ONEのキャストなの。
宮沢さんが七色グループを作ったばかりの頃。まだONE一店舗しかなかった頃の。
いわゆるオープニングキャストっていうやつね。その頃さくらと一緒に働いていて、さくらはナンバー1だった。わたしはいつもナンバー2だった。
あの頃は深海も有明もただの黒服で、皆仲が良くて、よくプライベートでも遊んだりしたものだわ」

アルバムに手をかける。
1番初めのページに、今よりずっと幼い由真とそしていつも隣で笑う女性の姿があった。
わたしはすぐにその人物がさくらさんとわかった。
それは自分に似ていたからじゃなくて、どの写真でも1番華のある人物に見えたからだ。

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