【完】さつきあめ
「凛さん辞めちゃうなら凜さんのお客さんの席に着かせてくださいねー。
どぉせもうキャバは出来る年齢じゃないんだから、引退でしょー?」
2人が言い争う姿はこの数日何回も見た。
こうやってゆいが挑発して、凛がその挑発に乗って、誰か彼かが仲裁に入って、もう見慣れた光景だった…はず。
凛はゆいの方を見ずに、鏡台に散らばった化粧品をポーチにしまっていく。
立ち上がり、真っ直ぐとゆいを見つめる。
「あたしの指名のお客さんは、ゆいを指名しないと思うけど?」
「えー、凛さんと仲悪いからですかー?てゆーか、仲が悪いからって言って、あたしの悪口お客さんに吹き込むのはなしですよー?」
「そんな事しない。
ただあたしのお客さんは人情深い女の子が好きだろうから、指名するとしてもあなたのお隣にいる彼女でしょうね」
凜はゆいの事を見ずに、わたしの方に視線をやる。
ゆいは凜が辞めると言っても、戦闘態勢まんまんだ。一歩前に出て、上から見下ろすように凜を睨みつけた。
けれど、そんなゆいの挑発に乗るでもなく、横を無言で通り過ぎて、わたしの肩をぽんっと叩いて更衣室を出て行った。
わたしは、凛が誰よりも努力をしていたのを知ってる。
そんな器用なタイプじゃない事も、きっと若い女の子に囲まれてここにいる事が辛かったのも。
そして気の強い性格のくせに、周りのキャストたちに誰よりも気を使っていた事も。
「なぁーに、つまんないのぉー」
「ゆい、言い過ぎだよ…」
わたしがそう言うと、握りしめていた腕をゆっくりと離していく。
何が?とでも言わんばかりの驚いた顔をする。