【完】さつきあめ
「社長に聞いた通りの子ね」
「え?」
「さくらは人情深くていいやつだって。わたしやお店の女の子の事を条件に出すより、ゆいを辞めさせるって言えば良かったのに」
光が、そんな事を…。
「光も…凛さんの事を同じように言ってました」
「別に、あたしは、いつも円滑に物事が回るようにしてただけ。
でもあたし、ゆいはあなたには勝てないと思うわ」
「もちろんあたしもそう思うよ~!!だってさくらのが頑張ってるもんね~!」
「ごくたまに、ゆいみたいな子見てきた。
才能があって、それを自分でも気づいていないような子。
でも気づいていないからって慢心していたら、絶対に落ちる時は一気に落ちていくの。
お客さんは見ていないようで、わたしたちの心をしっかり見ているわ。
だからこそ、さっきわたしのお客さんがわたしが辞めた後、指名するのはあなたの方だって言った」
「凛さん…」
「まだこんなところで辞めるわけにはいかないでしょ?
それなら頑張りなさいよ。あたしも来月まではお店にいるつもりだから」
「はい…、わたし頑張ります」
更衣室から荷物を出して、出て行こうとする。そこで少し足を止めた。
「さくらの事を話す社長、嬉しそうで、今までに見た事ない顔だったわ」
そう言い残して。
色々な人と出会って、色々な人とナンバー争いをした事がある。
負ける時もあれば勝つ時もあり、その都度感情はまちまちだった。
それでも条件つきで勝負を挑まれたのは初めてだった。
しかもわたしが上にいる立場で、追われる形で、どっちにしても今七色グループを辞めるわけにはいかない、わたしにはここでまだしなくてはいけない事がある。