【完】さつきあめ

飲まないからと言って、飲めないわけじゃない。
飲まないからといって弱いわけでもない。
わかりやすく、今月に入ってゆいはお酒を席で飲むようになった。しかも高額な物だけ。
わかりやすくわたしに敵意を向けて、わたしに勝ちに来ている。お店にいてもそれがよく分かった。

元々高級なボトルを出すのは得意。
それを自分が飲んで消費する事はなかった。
けれど飲めば飲むほど、ゆいに惚れているお客さんはボトルを卸していく。

もちろんわたしも自分のペースを崩さず、お店では接客をしていた。今までの経験を経て誰かの存在に焦って接客をするとろくな事が起こらないって知っていたから。

それにわたしには1つ気がかりがあった。

「さくらちゃん、何飲む?」

「んー、何飲もうかなー」

「ゆいちゃんの席、すごいシャンパンの数だね。
あのウィスキーも超高いやつじゃん!
こっちもシャンパン頼む?」

「シャンパンかぁー…諸星さんが飲みたいならいいけど」

「じゃあアルマンドでも景気良くいっちゃいますかぁー!」

「わーい!ごちになりまーす!
ても1番安いアルマンドね!それに1本までですからねぇ」

「もぉーさくらちゃんはーそういう時はもうちょっとキャバ嬢らしくしちゃいなよー。気ぃ使ってくれるのはわかってるんだけどさぁー。まぁさくらちゃんのそういうところ好きだよ!
ところで、ゆいちゃんは相変わらず景気がいいねぇ」

諸星が見つめる先、いつもより少し頬を赤く染めたゆいがにこにこと嬉しそうにシャンパングラスを持つ。
ゆいの持つ女の子らしくふわふわした雰囲気が好きな男の人がこの世に多いのはわかる。
女のわたしからしてみてもゆいの雰囲気は可愛いのだから、男にとっては堪らないんだろう。
でもゆいはゆいで、わたしはわたし。同じ過ちは繰り返さない。

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