【完】さつきあめ
「お、さくらお疲れ~」
気づいていたくせに。
童顔の男が、この上なく子供っぽい顔をして笑う。けれどもこの人の裏側にあるしたたかさをわたしは知っている。
凛の事はもう見限ったのだろう。声さえかけなくて、分かりやすいと男だと思った。
使えなくなった物は使わない。壊れた物は捨てればいい。それがこの男の考えだ。
「おつかれさまです…」
「さくらー、ちょっと売り上げ落ちちゃってるんじゃないの~?もっと頑張らなきゃ。うちのナンバー1なんだから~」
わざとらしい挑発。
光は担当するお店の女の子をひいきしたりなんかしない。
誰かを特別に見えるような事はしない人だった。
たとえ特別だと思う子がいたとしても、お店では誰にだって平等だった。
「はぁ」
「何~?やる気ない感じ~?
そんなやる気ない感じでお店にいられても迷惑なんだけど~?」
「別に、THREEにいる誰にも負けるつもりはないわ」
1年前のわたしだったら、こうやって堂々と言えていなかった。
いつも自信がなくて、威圧的な言葉には縮こまってしまっていた。
でも今は違う。
信じてくれている人がいるから。
わたしのやり方は間違っていないと、応援してくれる人がいるから。
そこにあった自信はただの虚勢ではなかった。
この1年でわたしの中で確実に芽吹いたものだった。