【完】さつきあめ
ぽかんと口を開けて、静かにロウソクに灯る火花を見つめていた。
何も言わず。

「宮沢さん、火ぃ消して!火!」

「あぁ…」

唇を尖らせてふーっと火を静かに消す。
それでも朝日は、ぼんやりとした顔をしたままケーキを見つめていた。

「お誕生日おめでとうございます」

「おめでとーございまーす」

「ねっ!どうですか?!この特注のケーキ!
パンダですよ?!宮沢さんに全然似合わない!」

「……」

それでもなおも朝日は眉をしかめたまま、ケーキをじぃっと見入るように見つめた。

「…て、あたし外しましたね。なんかすいません…。
喜びやしないっすよね…こんなケーキ…」

「いや、違うんだ…。
こんな大きなケーキ貰うの、初めてなんだ…。だからびっくりして…」

「え?!」

朝日の口元が緩んで、まるで小さな子供のように嬉しそうな顔をしていた。
朝日は携帯で何度もそのケーキの写真を撮っていた。
こんな素直に喜ぶ朝日の顔を見るのは初めてで、まさかこんな反応をしてくれるなんて。


「宮沢さんなら…誕生日にこれより大きなケーキもらうでしょ…。
それに小さな時だってもらったでしょ」

朝日はわたしの顔を見ると、目を細めて切なそうに微笑んだ。

「あんなん義理だろ。とりあえず、会社のトップだから用意しとかなきゃいけねぇみたいな。
それに小さな時に誕生日のお祝いをしてもらった記憶はねぇんだ。小さい時に母親は死んじまったし、家族にケーキはもらった記憶はない」

< 486 / 598 >

この作品をシェア

pagetop