【完】さつきあめ
「夕陽、ゆりから聞いたよ。
美優たちと飲みに行ってるって言った時、あの人といただろう。
あの人の誕生日に、一緒にいただろう…」
「それは…」
何を言い訳をしたところで、あの日嘘をついたのは事実で
光から視線を逸らすと、わたしの両手を掴んでいた手の力が一層強くなる。
「そんなに…兄貴の方がいいのかよ!!
なんでだよ!さくら!」
悲鳴にも似た叫び声だった。
光はどんな時だって、ふたりきりの時は必ずわたしを夕陽と呼んだ。
けれど、今、真っすぐにわたしを見つめる瞳が、’さくら’と呼んだ…。
光の手が、スカートの中に伸びた瞬間、わたしは光の頬を強く叩いた。
「あたしはさくらさんじゃない!!」
その言葉に光の瞳が大きく見開いた。 と思った瞬間、驚いた表情を浮かべて、ベッドから転がるように光の体が落ちて行った。
真っ白な顔をして、後ずさりをする光の全身が震えている。
自分の震える両手を見つめ、顔を横に何度も振った。
「俺……俺…、ごめん、ごめん、さくら」