【完】さつきあめ
留めておきたかった感情が爆発するのはいつも突然の事で
わたしはいつも怖かった。怯えていた。誰にも知られたくなかった。
自分で自分の感情を認めたくなかった。気づいたら溢れる事を知っていたから、ただただ感情に蓋をして、いつも何かから逃げていた。
「どうして、泣いているの?」
「もうだいじょうぶです、一気に酔いが覚めました」
起き上がり、立ち上がろうとすると、強く手が握られた。
「どこに行くというの?」
まるでわたしを呼び止めるように、強い力だ。
「中途半端な気持ちで、会いに行くというのなら止めなさい。
あなたが誰かを傷つけたくないという気持ちは、自分を傷つけたくないからだわ。
今のあなたには何も選び取れない」
真っ直ぐな瞳を向けて、怖いくらい綺麗な顔をしていた。
誰かがわたしを真っ直ぐだと言った。けれど全然違った。
掴まれた手を振り払ったら、その綺麗な顔を歪ませて、傷ついた顔をした。
「あたしはトリガーには行かないわよ。
あたしは付き合いが長いぶん、あなたより朝日が大切だから」
11月の気まぐれな天気が雨を誘って、灰色のアスファルトを紺色に染め上げていく。
週始めの街は心なしか寂しげで、皆が傘を広げて歩いていた。
当たり前のように空は星も月も映さない。ただ漆黒が包みこんだ空を睨みつけて
びしょ濡れのまま、歩いた。
わたしは傘を持っていない。全て捨ててきたから、もう何もない。